“素材が持つ特性を引き出し、自然の現象を増幅させ、暮らしの豊かさに繋げていきたい”
1本のキハダの木を囲んだ軽井沢の邸宅『Grove Strolling Corridor』で、2025年「モダンリビング大賞」ベスト6を受賞した建築家、谷口幸平氏。主宰する建築設計事務所and toが手がけるプロジェクトにおいて、徹底して素材にこだわる谷口氏が考える「場所が育てる建築」とは?その魅力と想いに迫ります。
子供の頃から空間を創ることへの憧れがありました
母方の家が三代続く大工だったので、母の実家には製材所があり、おがくずや木の香りがする場所でいつも遊んでいました。4歳のときに家を建て替えたのですが、目の前で毎日徐々に自分の家が出来上がっていくのをずっと見ていて、子供ながらに不思議な体験だったので「空間を創ることへの憧れ」が生まれました。それが原風景だったと思います。もう一つは信楽という場所柄、友人の家も窯元だったり、小学生のときから粘土をこねてろくろで遊ばせてもらって、きれいな球を作って登り窯で焼いてもらったり。手の感触へのこだわりは、粘土をこねていた経験から生まれているかもしれません。
大学卒業後は中村拓志さんが主宰するNAP建築設計事務所に10年勤めました。そこでは中村さんの凄さを日々実感しましたが、建築に対する真摯な向き合い方はもちろん、クライアントへの接し方や建築家としての姿勢を学ばせていただいたことが、いまの自分の財産になっています。
「場所が育てる建築」をテーマにチャレンジしています
「モダンリビング大賞」のベスト6に選んでいただいた『Grove Strolling Corridor』も、30代でやってきたことの集大成になったプロジェクトです。初めてその土地を訪れたとき、目の前の緑道の木立が美しいと感じました。クライアントは戦後から代々この場所で暮らし、先代まで木材を扱うことを生業にしていました。自身のルーツとして木に思い入れが深く、それを聞いて、この環境を変えずに建て替える必要があると強く思いました。家族が大切にしていたキハダの木はもちろんですが、緑道を含めた環境全体についての記憶はすごく大きいので、ずっと続いている木立の風景を、建築自身が途切れさせるべきではないと思いました。その結果、代々続く家族の生活動線をそのままトレースすることによって、既存の樹木をいっさい伐らずに計画を実現しています。
プロジェクトで使っている丸太は、すべて森に自生していた向きに合わせて使っています。経年変化を少なくする事はもちろんですが、それよりも丸太自体が山の中で育ってきた時間の力をそのまま建築の中に継承したいと思いました。幸運だったのは、施工に善光寺の宮大工に入っていただけたこと。丸太の加工、細い材を組み合わせる外壁の曲面など、宮大工が長い年月にわたって継承してきた技を活かして、美しい木造建築が実現できました。
Photo: Koji Fujii / TOREAL
木漏れ日が映える繊細なパールジャスミンを選びました
今回は、出隅に優しく丸みをつけて欲しいというクライアントの希望から、アールのとりやすいSilestoneを採用しました。素材を横断して、石材と木をまったく同じ納まりで実現しています。空間によって植栽を使い分けていますが、こちらのキッチンワークトップは、朝食をとるときに木漏れ日や穏やかな影が落ちてくる場所なんです。そのやさしい木漏れ日が繊細な模様に合うので、「パールジャスミン」を選んでいます。
Photo: Koji Fujii / TOREAL
光のリフレクションを素材が映し、自然の移ろいを感じさせます
このプロジェクトのキッチンワークトップでDekton「Kelya ケリヤ」を使っています。クライアントが料理好きなこと、子どもたちがここで勉強することも考えて、ワークトップとしての強度や耐熱性はもちろんですが、手触りや風合いも重視してDektonを選んでいます。
都心部にいると自然の移ろいを感じにくいので、高窓や光を反射する竹の性質を利用した壁、石の縁側に庭の緑を反射させるなど、一つ一つの素材を装飾として選ぶのではなく、素材が持つ特性を引き出し、自然の現象を増幅するために使い、暮らしの豊かさに繋げていく。すべてのプロジェクトにおいて、それを心がけています。
and to公式サイト https://andto.jp/
Kohei Taniguchi
建築家






