〝建物のリノベーションが 地域の循環につながることもあります〝
京都・八坂の塔を間近に望むルーフトップバー。まるでアートのような空間が印象的なラグジュアリーブランドのカフェ。5つ星ホテルから商業空間、高級レジデンスまで、常に話題を呼ぶ空間を創造する小坂竜氏は、歴史ある空間プロデュース会社のクリエイティブチームA.N.D.のトップとして、デザイナーを率いるクリエイティブディレクター。建物を超えて、街とのつながりやライフスタイルまでデザインするクリエイターへのインタビューから、建材に求められる未来も見えてきました。
デザイン部門を設立して仕事の幅が広がり海外のプロジェクトも増えました
僕がいる乃村工藝社は130年以上の歴史がありますが、ミュージアムや展示関係の設計・施工の仕事が多かったんですね。ショップやレストランなど恒久的でクオリティの高い空間を生み出すために、A.N.D.(AOYAMA NOMURA DESIGN)というチームを設立しました。デザイン・設計・施工は単独でも請け負えて、どんな組み合わせでも、もちろん三位一体でも仕事ができる。デザインに特化した部門を立ち上げたことで、設計・施工にとらわれず、海外の企業とも柔軟に仕事ができるようになりました。
ターニングポイントとなったのは、愛宕グリーンヒルズにある「XEXゼクス」のインテリアを手がけたこと。そこが評判になって「マンダリン オリエンタル 東京」の国際コンペに呼ばれ、ラジグジュアリーホテルのメインダイニングをデザインしたことから仕事が広がっていきました。
ターニングポイントとなったのは、愛宕グリーンヒルズにある「XEXゼクス」のインテリアを手がけたこと。そこが評判になって「マンダリン オリエンタル 東京」の国際コンペに呼ばれ、ラジグジュアリーホテルのメインダイニングをデザインしたことから仕事が広がっていきました。
大切な場所を再生することで地域の循環につながることもあります
話題になった「ザ・ホテル青龍 京都清水」は、築100年を超える小学校の校舎を、今後50年は利用できる建物にリノベーションしたものですが、あえて新しさを主張しないデザインを心がけました。小学校時代の窓枠や梁が反射する素材を選んだり、機能的でありながら古いものを映し出す鏡のような、とてもチャレンジングな試みとなりましたね。かつて小学生たちが京都の街を眺めた大切な場所として、屋上をルーフトップバーにアレンジ。年月を重ねた卒業生の皆さんが一番よろこんでくださり、僕もそれがうれしかった。「もう一度学校に戻れる」という地域の循環にもつながったのかなと。インテリアデザインを通じて、ライフスタイルにも深く関わっていけると確信しました。
オープンキッチンが変えた デザインの大切さと素材に求められること
ここ10〜15年で、ホテルやレストラン、レジデンスでもキッチンがオープン化してきました。以前のクローズドキッチンではデザイナーはあまり関与しなかったけれど、オープンキッチンだとお客さまから見えるので、デザインが必要になる。バスルームもそうですね。オープンになると、広くてより美しいものが求められる。素材の可能性を模索するなか、美しいこと、耐久性に優れて過酷な条件下でも使えることが重要になりました。そのタイミングで「Silestone サイルストーン」や「Dekton デクトン」と出会い、より表現がゆたかになったと感じています。これからも素材の進化が楽しみだし、デザインの幅を広げる味方になってくれると感じています。
11月にオープンした麻布台ヒルズにある慶應義塾大学病院の予防医療センターでも、面談室と個室に「デクトン」を使っています。耐久性はもちろん、清潔感が演出できる色調として、グレーの中でもあたたかみのある「Kira キラ」を選びました。病院というよりホテルに近いイメージで、空き時間にはパソコンで仕事もできるし、リラックスした気分で安心して検査を受けていただける。いままでなかった空間として、僕たちにとっても新たな経験となりました。
11月にオープンした麻布台ヒルズにある慶應義塾大学病院の予防医療センターでも、面談室と個室に「デクトン」を使っています。耐久性はもちろん、清潔感が演出できる色調として、グレーの中でもあたたかみのある「Kira キラ」を選びました。病院というよりホテルに近いイメージで、空き時間にはパソコンで仕事もできるし、リラックスした気分で安心して検査を受けていただける。いままでなかった空間として、僕たちにとっても新たな経験となりました。
付加価値を加えるリノベーションによって街そのものをデザインできる
昨年12月、恵比寿ガーデンプレイスにオープンした「BLUE NOTE PLACE」は、ビアホールの後継として、僕がブルーノートを紹介しました。ニューオーリンズの街を歩いていると、ジャズが聞こえてきて、覗くと演奏をしている。そんな風に、「音楽が街にしみ出るような空間」がコンセプトです。地下空間が多いライヴハウスにとっては、光が入って風が吹き抜けて心地よく、広場に面しているので街と一体になれる。商業施設にとっては、ゆたかな音という付加価値が加わり、ワークショップなどで周辺住民との交流の場にもなる。レンガやフローリングはそのまま活かしてリノベーションしたので、サステナビリティも大切にしています。インテリアデザインを通じて、街に新しい魅力を加えることができると実感しました。
Kosaka Ryu
インテリアデザイナー・クリエイティブディレクター